「99・9%は仮説」竹内薫

Posted by michy on 3月 5, 2006 in ノンフィクション

「99・9%は仮説」
竹内薫

「医療はオーダーメードであるべきだ」で、引用の引用で紹介した「99・9%は仮説」を読了しました。いやー、期待に違わずおもしろかったです。

例示として取り上げてある科学的な概念などは難しい概念が多いものの、エッセンスが分かりやすい言葉で綴られていて、「この人って、言葉っていうのは伝わらなければ価値がない」ってことを意識して書いてるんだ〜、と思いました。別のエントリできちんと書こうと思っているのですが、私は書きやすさや自己満足、権威主義ののために難しい言葉を使うことは、自ら伝える対象を限定する大変愚かなことで、その難しい言葉を理解しない人には何も伝わらなくてもまったく文句は言えないと思っています。でも、いちいち分かりやすい万人に通じる言葉っていうのを探すのは難しいし、自分の知ってる一言で言える言葉があったらそれを使ってしまいたい誘惑には逆らいがたいし、「難しい文書を書いてる自分ってステキ」と酔ってしまう心情も分からなくはないので、難しい概念を分かりやすく伝えている書籍をみると感動します。これはまさにそういう書籍でした。

私は新書って読まず嫌いなところがあったんです。深いことを知りたいときには短すぎるし、図解も少なそうだし、縦書きだから小難しいことが小難しく書いてあるんじゃないかと思って敬遠していました。でも、「そこまで深くは知らなくてはいいけど、さらっとは知っておきたい」ってことを読むのには便利なものだったんだなー、と思って、読まず嫌いを直そうかなと思いました。次は、今更ですが「さらっとでいいけど言ってること知りたいんだよなー」と思ってた養老孟司の「バカの壁」あたりでも挑戦してみようかと思いました。

本の内容は、私がいつも考えていること&少し発展という感じでした。科学っていうのも結局は仮説であって、絶対的なものではありません。時代時代によって価値観の変わっていく相対的なものです。その相対性を認識するためには、いろんな「仮説」に触れてみるべきです。客観というのは究極のところ主観の集まりだし、自分が認識得る現実世界のモノも、自分が信じている「仮説」に従って認識されている以上主観的であることは免れません。だから、科学の偉大な発見というのは帰納法ではなく演繹法から生まれるものです。また、それは科学ではなく、現実世界の色々な定説、例えば昔あった「土地の値段は下がらない」という神話などにもあてはまることです。常に「これは仮説かもしれない」と思うことは疲れることで、どうしてもその気持ちを忘れがちになりますが、忘れないようにしましょう、というようなことが様々な具体例を交えながら分かりやすく書いてあります。

この私のよく分からない要約を読んで「は!ナニソレ!」と思った人はぜひ読んでみてくださいませ。

また、私はその主張もさることながら、あげられている例示を読むのがおもしろかったです。ロボトミーが怖い手術だったことやとか、相対性理論がエーテルの存在を否定したあたりは軽く知っていたものの、他人に説明できるほど詳しくは知りませんでした。そこでブログを書いたりするときで「科学っていうのは実は間違わないものじゃなくて」ってことを書きたいとき、適切な実例をいつも引用できなくて、キーッ!って思ってたのですが、ネタがたんまり溜まりました。やったね!

そして、びっくりしたのが、そういう「仮説」の入れ替わりである「科学の歴史」や「科学」とはそもそも何ぞやみたいな「科学哲学」という分野が今科学者から嫌われていて、教えられようとしていない、ということです。

あり得ない!!!!

科学が相対的であることや、その歴史を知らずに科学者たろうとするなんて、それはなんていうか、同じ過ちの繰り返しまくりや科学絶対主義に陥ってガリレオを批判した人をまったく笑えなくなる可能性がある気がします。著者はそういうことは中学や高校で教えるべきと指摘していましたが、まさにそう思います。

思えば、私がエーテルって存在を昔の人は信じてたんだけど〜、ってあたりとか、ロボトミー手術って怖い手術が大変役に立つ手術であると信じられていて、それでノーベル賞をとった人がいるなんて知識をどこで知ったかと思ったら、それは理系な親が買い与えてくれた「まんが・アトム博士の相対性理論」(名著です。相対性理論をかじったことがなければぜひ!「まんが・アトム博士の楽しい化学探検」も大学化学をやってなければ併せてオススメです。小学校高学年以上向け)や、島田荘司なんかの好きな推理小説の小話に出て来た話で知ったなあと思いました。特に、科学ではないですが、叙述トリックの推理小説なんて著者の物語の語り方によって、いかに自分のものの見方が偏ってしまうかを知るのに役立って好きです。

ああいう本を読んでなかったら、今まで「科学にも間違った歴史があった」なんて事実を知らなかったのかな、と思うと怖くなりました。夫もエーテルやロボトミーの話は普通に知ってたので、夫は何で知ったんだろー、と思って聞いてみたら「え!僕は中学だったか高校だったかで科学の歴史を教えられたよ」と言われました。…名門中高一貫校の教育(教師?)の充実ぶりおそるべし。

そんなわけで、私たち以外の皆様がどうやって「科学には間違いもあった」ってことを知ったのか知りたくなったのでアンケートなどをつくってみました。例として、私としては一番有名な、アインシュタインが相対性理論を発表する前に信じられていた、宇宙空間に存在するとされた物質「エーテル」というものがあったことを取り上げさせていただきました。よかったらお答えください。








質問 宇宙空間に存在するとされた「エーテル」はご存知ですか?どこで知りました?


知っている。大学/高校/中学の授業で知った。

知っている。それ以外で知った。

FFでMPを回復してくれるやつ?

知らない






コメント











また、この本では異なる「仮説」同士だと言葉の定義が変わってしまうことが多くて、「どうもこの人相手には話が通じない」っていうときはたいてい、お互い異なる「仮説」にとらわれているから「相手がどんな仮説を信じているんだろう」と考え、理解することは大切と書いてあります。

これってまさに「なぜ、契約書が膨大に長くなっていくのか」ということを説明しているなあ、と思いました。専門化の進んだ現代社会では「仮説」というか「価値観」というかが膨大になりすぎてて、いちいち言葉に定義をきちんとつけないことには、ハッキリとした意思疎通がはかれないくらいになってるんです。特に欧米社会では顕著です。だから、契約書は長くなるし、定義条項がやたらと増えるんです。

愚痴なんですけど、トップ会談で話がまとまったかと思いきや、後で覆ることって結構あるかと思うんですけど、そういうときって法務にきちんと事前に相談していない場合が多い気がするんです。トップ同士は細かいことは気にしないで、相手と自分の言葉の定義が同じだと思って話をまとめて帰ってくるんですけど、いざ書面に起こしてみると、相手と言葉の定義でもめるもめる(笑)全然細かいことが詰まってなくって、しかも、その細かいことがかなりの利益に影響することだったりして、結局現場が一からネゴシエーションのやり直しをやることになったり、再度トップ会談になったりして「何で最初から法務に相談してくれなかったの?」なんてことになったりするんじゃないかと。だって、きちんと法務が入って、法務がきちんと仕事してれば「ここってこう解釈される可能性がありますよ」とか「こういうのってあの部署に確認しないで確約しちゃっていいんですか?」とか指摘できると思うんです。

最後に、私は色んな本を読むのが好きだったりするんですけど、それってこの色んな「仮説」に触れるってことを実践していたのかしら、と思って、自分のやってたことを褒められていたようでこの本を読んで嬉しかったです。

真面目な法律書や「クーリエ・ジャポン」や日経新聞も好きですが、大衆向け週刊誌とか読むのも大好きなんです。根がゴシップ好きなのもあるんですけど、「ああ、こういうものの見方もあるんだー」って感じで読むのって楽しくて好きです。2ちゃんねるに代表されるアナーキーな議論の場も、パソコン通信時代から観察して、「インターネットがつまらないという人への無言の抵抗」が副題だったあめぞーの時代にも覗いていましたが、ああいうところも、色んなものの見方も宝庫で時々見たくなります。ただ、いつの時代も同じような議論が繰り返されたりしている気がして、長時間みると飽きてしまったりはします。この本を読んで、それって根底にある「仮説」がみえてきちゃうととたんに「ああ、なるほど」って納得して飽きちゃうのかなー、と思いました。

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3 Comments

  • 新書萌のハードカバー萎え

    ちょうどいい機会なので、この質問への答えという形で、なぜ私が新書が大好きでハードカバーが嫌いなのかを書くことにする。
    404 Blog Not Foun…

  • 竹内薫 より:

    ふたたび、TBありがとうございます!
    私の場合、「エーテル」という言葉とその意味は、ブルーバックスか何かで読んだのが最初だったと思います。
    余談ですが、いまだにテイラーという人の「ブラックホール」というブルーバックスを読んだときの衝撃が忘れられません。中学のときでしたか。
    私も大学に入ったときは法律を専攻しておりました。(その後、流浪の旅が始まりましたが(笑))

  • michy より:

    コメントありがとうございます。法律を専攻されていたんですか。びっくりです。ブルーバックスは強いですね。私は実はあんまり理系っぽいことに興味がないので、読まず嫌いなのですが、今度チャレンジしてみようかと思っています。
    アンケートの結果は、今のところやっぱり「その他で知った」っていう人が多くて、それってどうよー、と思いました。でも、思ったより学校で学んでる人も多かったし、全然知らないって人も少なくて(アンケートに答えてくれた人がそうなだけかもしれませんが)、安心しました。

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