「青の炎」貴志 祐介

Posted by michy on 11月 14, 2006 in フィクション

「青の炎」
貴志 祐介

…これなんてエロゲ?
いや、真面目な倒錯もの青春ミステリなんですが、もう文庫化からも時間が経ってるし、こういう感想もアリだと思うわけなんです。ミステリをこんなに爆笑しながら読んだのは久しぶりです。「百夜行」(in this blog)並に暗いはずの話なんだけど思うのですが、それ以外のところが気になって仕方がなかったです。
読み始めたのは、PS3のために行列(といえないほどの長さですが)に並んでいるときで、いかにもオタクっぽいことのために並んでいるのに、ミステリの文書中の主人公の描写にも「Z会」だとか、「大学への数学」(もちろん雑誌のほう)だとか、「ロードレーサー」(私が持ってるのはクロスバイクなので少し違うけど)だとか、「インターネットでアングラ・サイト」とか、最初数ページでアイタタタな描写が多くて、「私ってこういう星のもとの生まれなのかしら」と何か悲しくなりました。
読み進めると、どうやら完全週休二日制に移行する前の話っぽいし、エピソードもその年代に近かったので、気になって発表年みてみたら1999年でした。主人公は理系の高校二年生の男の子って設定で、取材はそれより前にしてるんだろうから、ちょうど私がモラトリアムを過ごした時期とかなり近く、はしばしのエピソードが身にしみました。
「われず」や「鯖」ってキーワードで非合法なお薬を売ってるサイトを探すのは非効率的だろう、と突っ込みたくなったり(もちろん効率的なワードは真似する人がいるといけないので書けないと思いますが)、「秀一は、その日の深夜、二本の『串』を経由して、(中略)に接続した。」とあって、地の文ので『串』はありなのか?いや、むしろ正式名称を書くよりそのほうが分かりやすいのか、この当て字を考えた人は偉いな、と思ったりしました。
そしたら、いきなり展開が「何このツンデレ恋愛モノ!」という感じになって、とてもびっくりしました。ここまで典型的なのも珍しいというか、男の子のドリームっていうか、あんまりびっくりしてミステリっぽい要素を忘れて二人の行方がどうなるのか気が気じゃなくなりました。
夫に「さっき言ってたミステリが実はツンデレ恋愛モノだった件について」と言ってみたら、「自分の業の深さを思い知った?」と言われました。確かに、業が深いとは思ってたけど、ここまでとは…。ちなみに、ツンデレな彼女の主人公に対する二人称は「君」です。ちょっとだけ台詞を抜き書き。

「ナルコレプシーって?」
「時と場所を選ばずに、突然、眠ってしまう病気だ。あいつも、いつでもどこでも、瞬間的に眠りに落ちるんだ。どんな厳しい先生の授業のときでもな。不眠症の人間には、もう、憧れの的だ」
「……君が一年生のときのクラスでは、授業中、誰も起きてなかったの?」
「もちろん、誰かは起きてたさ。考えてもみろよ。そうでなきゃ、誰が寝てたのか、わからないだろう?」
「はいはい。わかりました。その通りね。(以下略)」

そうそう、ツンデレな彼女は転校生でかつ幼なじみです。これだけ属性を詰め込むのもすごいと思いました。「萌える」と思ったあなたはぜひ書店へゴー。
はしばしに高校の授業の内容が出てくるあたりも個人的にツボです。漱石の「こころ」は一番大好きな「もう取り返しがつかないという黒い光が私の未来を貫いて、一瞬間に私の前に横たわる全生涯をものすごく照らしました」が引用されていて嬉しかったです。もっとも、主人公の「こころ」に対する解釈はかなり間違ってると思いました。「山月記」や梶井基次郎、「罪と罰」、「菊と刀」あたりにも心惹かれました。
小説としての感想は、最初は同じ著者の「黒い家」(in this blog)のような救いのないような感じかと思っていたものの、私としては救いのある話になったなあ、と思い、なんだか安心しました。「黒い家」を読んだときに、著者にこのような話を書かせる生保業界というのはどういうところなんだろう、とそのことに思いを馳せてしまったので。ラストもなかなか好きです。色んな人がいて、色んな事情があるってことでいいんじゃないかな、と思いました。
ミステリとしてみると、倒錯モノのミステリとしては毛色が変わっていていいなぁ、と思いますが、少し物足りないです。殺人に至る心情描写やその後の描写は個人的にはあんまり心に響きませんでした。青春小説って感じです。
以下は少しネタバレのアホ感想です。読んでも「キモイ」と思ってこのブログを読むのをやめないと約束してから読み進めてください。

電気コードの分解とか、テスターとか、ミノ虫クリップあたりの話も懐かしく、ツボの「足三里」についても「足三里は効くよね」と思いました。足三里が痛くない、という人がいるなんて信じられない!
また、萌えポイントはツンデレ幼なじみ転校生彼女だけかと思っていたら、いきなり妹萌えっぽい話もも出て来て、夫に「ねえ、この話、おかしいよ!血のつながらない妹が出て来たんだけど」と報告したら、「キミの観点がオカシイ」と言われました。ゴメンナサイ。
そんな血のつながらない妹と密室で二人きりのときの会話です。

「別に、何にも、悩んでんじゃないって。ここんとこ、いろいろ嫌なことがあったから、パソコンで、ストレスを解消してただけだよ」
「また、エッチなゲームとかで?」
「最近の18禁ゲームは、泣けるんだぞ。知らないだろう?」
「知らないよ。……それに18禁だったら、お兄ちゃん、ダメじゃん」
「あれは、数え年で、決められているからな」

数え年ではありません…。この頃にそんな18禁ゲームがあったのかしら?と思って検索したら、「To heart」が1997年5月発売なんですね。確かに「最近」だと思いました。
そして、どうでもいいですがエロゲっぽい描写もあることはあり、ツンデレ幼なじみ転校生彼女のその点における属性やその場の反応も読者の期待(?)を裏切らない見事なできだと思いました。

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2 Comments

  • takechan より:

    「青の炎」貴志 祐介
    早速読まないと。
    あの、テレホーダイタイムのなかに青春をフルスイングでどぶに捨てていたときが懐かしいです。
    「ワレズ」「串」とかどんな文脈でつかっているか見てみたいです。

  • michy より:

    そういえばテレホーダイの描写がなかったです。電話代もバイトで稼いでるってことだったのかしら。現代は電話代もプロバ代も定額でいいですね。
    技術系の言葉なんかはむしろ使い過ぎな感じはあり、章タイトルになっている「Q=IVt」なんかは「別に高校物理を持ち出さなくても」と思いました。
    私は今もフルスイングでドブに捨ててる気がする時間が多いです。

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