カテゴリー:2.そもそも契約書はなんのためにあるのか

2.1 裁判になったときに証拠とするため

 そもそも契約書はなんのためにあるのでしょうか。究極の場合を考えてみましょう。相手方とプログラムを納めてお金をもらう約束をします。あなたはプログラムを完成させます。相手方に納品をします。相手がお金を払ってくれません。相手方と払う、払わないという言い合いになるでしょう。それでも払ってくれません。どうすればいいでしょう。話し合いでは埒があかないのですから、あなたにできることは裁判に訴えることだけです。さて、裁判でどうやって「プログラムを納めたらお金がもらえる約束になっていたんだ」と証明するのが一番楽でしょう。

 契約書があれば簡単です。契約書および契約手続きのときに提出する印鑑証明さえあれば、裁判所は、原則として相手の代表者印が押された書類の内容が約束された内容であると考え、よほどのことがないとくつがえりません。

 反対に、契約書が無くて、相手方が「あれはサービスだと言われた」と主張をし始めると、どっちがより正しいと考えるかという裁判官の判断一つにかかってきます。無償か有償かなら、あなたが有利かもしれません。しかし、金額の話や細かい規定の話でお互いの主張が異なると、契約書や録音テープでもない限り、どちらの言っていることが正しいのか、裁判官の考え次第という危ない事態になってしまいます。

 日本では、法律上、契約は申し込む意思とそれに対する承諾があれば口頭でも有効に成立します。ただ、口頭の申し込みと承諾は成立した事を証明するのが難しいのです。その点、契約書があれば、いざ裁判になったときに、どのような証拠を提出すれば約束があったことを証明できるのか悩む必要がありません。

投稿者: michy 日時: 09:17 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2.2 トラブルになったときによりどころとするため

 いざ裁判になったときに証拠になる、ということは、そこまでいざとならないときでも役に立ってくれます。そこまでいざとならない段階から一歩進んで裁判になったら不利だと分かっているなら、相手もそれ以上の交渉はしにくいです。

 前の例でいうなら、相手方と払う、払わないという言い争いになったときに、契約書を持ち出して、「契約書に完成物を納品したら、お金を払うとあります。この契約書は代表社印も押してありますし、印鑑証明もついています。裁判でも十分証拠として成立します。お金を払ってください」というだけで、ずいぶんと相手方に対してプレッシャーになるものです。

 誰だって負けると思った勝負は挑んできません。

 また、本当に約束していたことを忘れていた、ということがあります。本人が忘れていることもありますし、担当者が変更になって、誰も当時のことを知っている人がいなくなっていることがあります。そのようなときに頼りになるのが契約書です。「昔、このように約束した証拠があるようですが」と契約書を引っ張りだすだけで、相手方にプレッシャーを与えることができます。

 もちろん、反対に自社の担当者が契約書の内容を忘れたり、引き継ぎのミスで契約書の内容に反したことをしていると、相手方に契約書を持ち出されたときに逆にあたふたして足下をすくわれかねませんので、ご注意ください。

投稿者: michy 日時: 09:18 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2.3 その他もろもろの効果

 副次的な効果として、大きな会社になると税務署に対する証拠として契約書があると便利な場合があります。税務署は脱税に神経質です。実際の取引とは異なったお金が行き来することを警戒しています。例えば、業務委託の形を借りた譲渡などです。

 しかしながら、業務委託をしたという契約書があれば、「さすがに業務委託の契約書を作ってまでは譲渡は行わないだろう」と、業務委託があったことを信じてくれることが筆者の経験上多いです。

 税務署の職員も、もちろん、日本では契約は口頭で成立し、書面などなくてもお金が行き来しても法律上問題ないことは承知しています。ですから、「これは事情があって書面がありません」と説明をすれば納得はしてくれるのですが、書面のない理由を税務調査のたびに探索し、説明する手間より書類を作る手間のほうがかからないのが実情であることが多いです。

投稿者: michy 日時: 09:19 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2.4 約束(契約)がないと?

 では、トラブルが起こって、そこに契約書があっても、そのトラブルに関する条文が契約書にない場合はどうなるのでしょうか。

 実はよく聞く民法という法律はほとんどそのためにあります。両当事者間で事前に何も決めていなく(「定めがない」という)、トラブルが起こった場合は、民法などのいわゆる任意規定と呼ばれるものに従って処理されることになります。

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「任意規定」というのは、その条文に違反する効果を認めない「強行法規」と呼ばれるものに対比して、「両者が特別に約束した場合以外は、この規定を適用します。しかし、この規定とは異なった約束をするのは自由です」と民法で補充的に決められている規定になります。契約書等の証拠が無い場合も同様に任意規定に従って扱われる可能性が高くなります。

 しかしながら、任意規定はいろいろな世界の常識をいっしょくたにしたものですから、SEの業界でそのまま適用するには、あまり商慣習にそぐわない部分も多く出てきます。

 このような任意規定に従わないことを明確にするために、任意規定と異なる契約書を結ぶことが重要になります。

投稿者: michy 日時: 09:19 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2.5 瑕疵担保責任

 よく問題になる任意規定に民法で定められている「瑕疵(かし)担保責任」というものがあります。民法で定められる瑕疵担保責任は、売買の場合と請負の場合とでは規定の内容が少し違います。SEの仕事というのは、通常、売買(物や権利の売り買い)ということはなく、請負(仕事を完成させる約束)ということになるでしょうから、ここでは請負の場合の瑕疵担保責任について説明します。

 民法に定められている請負の場合の瑕疵担保責任とは、仕事を請負った側は、完成した仕事の引き渡し後1年間は、完成したものに対し約束した機能がなかったり、バグがあったりなどした場合(=瑕疵)には、注文者の損害の状況に応じて、無償での修理や損害賠償などの要求に応じなければいけない責任を負うことを指します。この責任は、たとえ請負人にまったく過失がなくても負わなくてはいけません。

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 プログラムの完成などの仕事を請負った場合に、この責任を背負うことになることがいかにおそろしいことかはお分かりかと思います。民法そのままの請負の瑕疵担保責任が適用されると、仕事が完成してからも1年間はずっと「バグがあるんだけど」と言われたら、たとえ自社に責任がなくても無償で補修しなくてはいけないので、びくびくして過ごさなくてはいけません。

もちろん、力関係によっては、仕事を受けるために仕方なく、このような内容の契約書を締結しなければいけないことがあるかもしれません。しかし、プログラム制作は複雑さを増し、完璧なバグのないプログラムを仕上げることは非常に難しい状況です。このような中、プログラムを制作する仕事を請負う側なら民法に規定されているままの瑕疵担保責任を負うのはなるべく避けたいと思うでしょう。また、SEの業界の通常の商慣習が民法に規定されている瑕疵担保責任と同じであるとは到底いえないでしょう。

 この民法で定められている瑕疵担保適任の適用を避けたいとなったらどうすればいいのでしょうか。瑕疵担保責任は相手と契約(約束)がないときに適用される任意規定ですので、相手方と異なる約束をすれば効力を持ちません。約束はもちろん口頭でも有効ではありますが、いざというときに「いや、あのときはああいう話でしたけど」と相手が言い出さないとは限りません。書面、つまり契約書にしておくのが一番です。

投稿者: michy 日時: 15:58 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2.6 権利の帰属

 瑕疵担保責任の項だけど読んで、「なーんだ、民法の規定って請負人にとって不利なんだ。じゃあ、注文する側だったら何も決めないで注文したほうがいいんだ」などと考えるとおそろしいことが待っています。それは出来たモノに対する権利の帰属先に関係します。

 プログラムは著作権法でいう著作物と考えられているのですが、特別な約束をしない限り、著作権はプログラム制作を注文した側ではなく、プログラムを制作した側に所属することになります。特別な約束をしていなくて、プログラムの著作権がプログラムを制作した側に帰属してしまうと、プログラムを注文した側が完成したプログラムを利用したい場合には、また別に特別な約束をして、プログラムを利用できる権利(ライセンス権などと呼ばれます)を認めてもらわなくていけません。

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著作権の所在を示すために「©」という表示をしたりしますが、世界のほとんどの国では「©」表示をしなくても著作権の発生は認められます。著作権は著作物(この場合はプログラム)を制作した時点で発生し、制作した人又は会社に帰属します。「©」表示は、約束を証明する契約書のように、「え、そんなあなたの著作物だとは知りませんでした」という人が表れると面倒なので、予防的に表示されているものだと考えると良いと思います。

同じく、よくイラストや文書などで「禁無断転載」などという表現も見かけますが、このような表記をしなくても著作権者に無断で著作物を利用する行為は著作権法違反となります。プログラムにおいても同様で、プログラムを利用したり、配布したりしようと思えば、著作権者にその利用は配布を認めてもらうことが必要になります。

従って、プログラムを制作してもらって、そのプログラムを自社が自由に利用しようと考えるなら、必ず「著作権は注文者に帰属します」という内容の約束を交わしておく必要が生じます。著作権法は複雑なため、条文はたとえ「著作権はすべて注文主に」という内容であっても長文になります。

また、著作権というのは著作物を利用する権利ですので、どこまでの著作権をどちらが所持するのか、というのは取引の重要な要素となります。お互いにギリギリまで譲れない分野です。このため、「ここまでの著作権はこちらだけど、ここまでの著作権はこちら」と複雑な取り決めがなされることになり、長文化に拍車がかかります。

ここでは著作権の問題だけを取り上げましたが、知的財産権と言われる特許などの他の権利でも、法律の規定は多少違うものの同様の問題が起こりますので、あらかじめ取り決めておくことが重要になります。

このように、取引の実情にあっていない任意規定が適用されないために、契約書が必要になります。

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インターネットにソースコードが流通している、いわゆるフリーソフトウェアも商用に利用しようとするときには、必ず著作権者に利用について許諾をとらなくてはいけません。Readmeファイルなどで「©表示をすれば、商用に利用してもいいです」ということが書いてあれば、©表示を指定された場所にすることを条件に商用に利用できます。しかし、まったく何も書いていないと、著作権者を探し出し、利用の許諾をとるところからはじめなくてはいけません。まったく利用条件について書いた書類がついていない、ということは自由に利用していいのではなく、利用する条件が分からないということなのです。

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投稿者: michy 日時: 16:05 | | コメント (0) | トラックバック (0)